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ぼくらのクローゼット

埋もれている価値観の中から新しい楽しみと
生き方をいっしょに見つけていくメディア

旅する獅子舞

~生きる~ 坂口典和さん

~ひゃらら~

 みなさんは、これが何の音かわかりますか?
そう、まさしく笛の音です。


毎年、この時期になると、狭い距離を挟んで両側に迫る山々に囲まれた私の集落に、風に乗って流れるように響きます。
その音色は普段耳にする音楽とは異質であるけれども、どこか温かく、とても懐かしい。異界からの音にも聞こえ、思わず引き寄せられるような音色でもあります。

この笛の音の正体は、伊勢大神楽(いせだいかぐら)といって、獅子舞です。
三重県桑名に昔は12組あったものが今は6組になり、それぞれの組が一年のうち何か月もかけて西日本の各地を巡業(遊行)しながら年末にはまた桑名に戻られます。

ここ丹波の地を廻られるのは森本忠太夫(もりもとちゅうだゆう)親方の組(6~7人)で、まず瀬戸内の島々を巡って北九州まで行き、そこから逆向きにここ丹波へやって来て、その後桑名まで戻られます。ワゴン車に道具一式を積んであって、各地で宿泊する場所も昔から決まっているようです。

まず、先行のお二人が玄関に入って邪気払いをしてから、後続の五人(獅子2・笛2・太鼓1)が玄関前で獅子舞を踊ります。
そして、私たちは神札をいただき、お礼に幾らかを包むのですが、私の家は大根と里芋を毎年渡します。

もう17,8年前のこと。

中学生の時、寝床でディープパープルの‘‘Live in Japan’’をラジカセで聴くようなロック少年だった私がその後民族音楽に目覚め、「おれは、風になるんや~」とか言いながらケーナ、そして、その後篠笛を手にし、ちょうど運よく教えてくれる友人ができたりして、篠笛をよく吹くようになりました。

そして、田舎暮らしを始めてこの村に移ってきて出会ったのが忠太夫親方でした。

「その笛は、手作りなんですか?
 どこで手に入りますか?」

とにかく興味津々の私は、無礼を承知で初対面の忠太夫親方に質問を浴びせました。

「はい、私が作っています。
よければ、明日の朝、お持ちしましょう」

どこまでも紳士の忠太夫親方。
ただの村人の私に本当に笛を持ってきてきてくれるのか半信半疑ではありました。


翌日の朝7時頃だったか、こんこんと玄関をたたく音。
誰やろう、と戸を開けると、そこには忠太夫親方が立っていました。

そして、これをどうぞ、と言って、笛とカセットテープ(!)を手渡してくれました。カセットテープには神楽の曲が何曲も入っていて、耳コピしながらよく練習しました。


何か、不思議です。人生は、不思議です。

ハードロック・へヴィメタルをこよなく愛する少年がやがて篠笛を手にし、「風になるんや~」などと勘違いしながらも、土着の笛を手にして少年のように喜んで。。。そして、篠笛を手にして温泉街のホテルで和太鼓ショーに出演したり。。。
リーマンショック以降は和太鼓ショーも激減しましたが、それでも、時折、風に吹かれながら田んぼや山で笛を吹いています。

忠太夫親方の秋の丹波遊行が終われば風はいっきに冷たさを増します。

すぐに訪れる冷たい冬の到来を感じながら、身を引き締める11月の今頃。

 

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